2010.06.09
トンデモ話は奥で繋がる(32) 22.6.9
トンデモ話は奥で繋がる 「第三十二夜」
-弟子のクッテネルがお送りします。
≪ライバル誕生への序曲-大戦前の情景≫
★ ナポリ家、フランクフルト家の消滅
さて、栄華を極めたロスチャイルド5兄弟の各家のうち、イタリアの
ナポリ家は、四男カールの死後5年の1860年、イタリア独立戦争
の渦中で閉鎖されます。
一方、本家のフランクフルト家は、長男アムシェルに実子がなく、彼
の死後カールの長男マイヤーを養子に迎えたものの、7人の子が全て
娘だったため、その後カールの次男、三男ヴィルヘルム、末男アンセル
ムがやってきます。
ところが、アンセルムは若くして死亡、アドルフも子を残さずに死亡、
ヴィルヘルムは三人の子が全て娘でした。そのため、ヴィルヘルムが1
901年に他界すると、祖父の遺言にかなう直系の男子が全て途絶え
てしまいます。
これをもってフランクフルトのロスチャイルド家の「家名」は無くな
ります。しかし、ヴィルヘルムの嫁いだ相手ゴールドシュミット家は、
その弟の孫として1933年に生まれた、ジェームズ・ゴールドスミス
という怪物へ、ロスチャイルド家の商法ごと引き継がれることとなり
ます。
こうして2家の名は消滅しましたが、彼等の相互保障の関係からすれ
ば、想定内の出来事といえるでしょう。それでは、各国へ散った兄弟同
士が戦火にまみれる、第一次世界大戦へむけての事態はどうだったの
でしょうか。
★ 殺戮兵器に国境なし
第一次世界大戦前の「大砲・鉄砲」の分野のメーカーは数が限られ、
イギリスのアームストロング社及びフランスのシュネーデル社
が独占的は製造力をもっていました。
各国の王侯や支配者は、同じ会社の武器を取り合って殺し合いをして
いたばかりか、この二社は敵対する互いの母国にも武器を売りつけ、
ヨーロッパ全土の火の粉をふりまいていました。
一方ドイツでは、クルップ社が18世紀の半ばに、既に鉄砲に使用す
る強靭な鋼を完成させていましたが、この2社の独占体制に割って入る
ことが出来ずにいました。
しかし、1851年の開かれた世界最初の万国博覧会でその「真っ白
な鋼の砲身」が各国に注目され、クルップ社には将来敵国となるフラン
ス等からも注文が舞い込むようになります。
★ 怪人ザハロフとヴィッカース社
さて、第四の鉄砲メーカーが、奇妙な経過を辿って現れます。アメリ
カ人のハイラム・マクシムは、大西洋を渡って、オーストリア・ハンガ
リー帝国のフランツ・ヨーゼフ皇帝の前で、当時世界一と目された
「マクシム銃」を披露します。
しかし、これを「我が物」という誤報を流して乗っ取ってしまった男がい
ました。正式名をもたない怪人ザハロフでした。おかげで、マクシムには
一件の注文も入らず、ザハロフと手を組まざるを得なくなります。
その後彼はマクシム社を立ち上げ、1884年に「機関銃」を完成すると、
その4年後に、ザハロフの取り成しにより、造成・兵器会社のノルデンフェ
ルト社と、13年後にはザハロフの立ち上げた兵器会社ヴィッカース社と
合併します。
さらに、オーストリア帝国(後にチャロスロバキア)のシュコダ、ロシ
アのプティロフが出揃うと、ザハロフはこの6社の間を巧みに取り持ち、
互いの技術と兵器量を補完しあうという、「死の商人」のカルテルを作
り上げていきます。
一例として、クルップ社が「世界一の信管」を完成させると、ザハロフは
ヴィッカース社の代理人として、その技術を買取り、「砲弾1発ごとに、
その特許料を1シリング3ペンス支払う」という契約を結びます。
第一次世界大戦では、連合軍兵がドイツ兵目がけて1発撃つのと同時
に、ドイツに1シリング3ペンス支払っていたことになるのです。
そして、マクシム社と合併する際、ヴィッカース新会社の株式を発行
したのがロスチャイルド銀行でした。また、クルップ社が工場拡大の際
にも、ロスチャイルド銀行がシンジゲート団として融資に名を連ねてい
ました。
また、アームストロング社の創業者、ウィリアム・アームストロングの右
腕と称されたジョージ・レンデルは、ロスチャイルド家と姻戚関係に
あります。まさにロスチャイルド家にとって、世界大戦は、基本的には、
またとないビジネス・チャンスのひとつでした。
★ ドイツ3大銀行の誕生
第一次大戦前直前、今やのドイツの大富豪の第一位は「大砲王」クル
ップ家のベルタ令嬢。前述のゴールドシュミット=ロスチャイルド家は
第三位となっていました。
ユダヤ嫌いのクルップ家でしたが、しかしまた、ロスチャイルド家の支配
するヴィッカース社からは砲弾の特許料をもらっており、そのおかげで
の一位でもあるという、複雑な関係でした。
一方、19世紀の後半のドイツでは、次々と新興産業家が誕生していま
した。その一つが、ジーメンス社で、遠距離電信法を発明したヴェルナー
・ジーメンスは1847年にベルリンに電信機製造会社を設立します。
クルップ社は、電信や鉄鋼の分野で、早くからジーメンス社と手を組
み、軍需産業でドイツを引っ張っていきます。そして1870年、ヴェルナー
の従兄ゲオルグは、ドイツ銀行を設立します。
また、同じ年に、コメルツ銀行、ドレスデン銀行という、2008年までドイ
ツ3大銀行と呼ばれていた銀行がそろって誕生します。
今まで金融界を支配してきた、赤い楯の系列銀行-ロスチャイルド銀行、
ディスコント銀行、ダルムシュタット銀行にとっては、初めてのライバル
銀行の出現でした。しかしながら、19世紀末までは、工業界全体が産業
革命直後の共同事業状態にあったため、際立った競争はみられません
でした。
★ 自動車産業とロックフェラーの参入
しかし、そこに新たな産業が登場します。1885年にはゴッドリーブ・
ダイムラーがエンジン付き自動車を、1886年にはカール・ベンツが三輪
自動車を発明し、ドイツにダイムラー・ベンツ社が生まれます。
その後1905年には、1900年に電気自動車を発明したオーストリアの
フェルディナント・ポルシェが移籍し、ヒットラーのもとでフォルクス・ワー
ゲンを生み出すことになります。
ここに、経済界の主役は、車を動かすもの「石油」へ手渡されます。しか
し、当時ヨーロッパの石油は、1883年にバクー油田での生産を制してい
たパリ・ロスチャイルド家が握っていました。
しかし、ボルネオ島の油田開発に成功した、オランダのロイヤル・ダッチ
石油が1897年に設立され、さらに1899年、アメリカ大陸で全米の石油を
手中に収めた、石油王ロックフェラーがドイツ・モービルを設立すると、
ヨーロッパで石油の販売合戦が始まります。
さらに、1904年、ルーマニアの油田に進出を果たしたドイツ銀行が、
ドイツ石油を設立すると、ロシア、中近東、アジアの油田を巡っての、ロス
チャイルドVSロックフェラーVSクルップという三つ巴の利権争いとなりま
す。
こうして、新興の金融勢力による初の挑戦を受けたロスチャイルド財閥
でしたが、それ自体が脅威というわけではありませんでした。
実際、ロックフェラーが1895年の石油価格を巡ってのロスチャイルド、ノ
ーベルとの協定を破って、ダンピング攻勢に出ますが、逆に徹底的な叩き
潰しによって勝利しています。
こうした情勢の中、時代は第一次世界大戦へと突入してゆきます。その陰
には、この大戦を操る者達がいました。次回第三十三夜では、その辺りから
ふれてゆこうと思います。
目次のペーシへはこちらから
-弟子のクッテネルがお送りします。
≪ライバル誕生への序曲-大戦前の情景≫
★ ナポリ家、フランクフルト家の消滅
さて、栄華を極めたロスチャイルド5兄弟の各家のうち、イタリアの
ナポリ家は、四男カールの死後5年の1860年、イタリア独立戦争
の渦中で閉鎖されます。
一方、本家のフランクフルト家は、長男アムシェルに実子がなく、彼
の死後カールの長男マイヤーを養子に迎えたものの、7人の子が全て
娘だったため、その後カールの次男、三男ヴィルヘルム、末男アンセル
ムがやってきます。
ところが、アンセルムは若くして死亡、アドルフも子を残さずに死亡、
ヴィルヘルムは三人の子が全て娘でした。そのため、ヴィルヘルムが1
901年に他界すると、祖父の遺言にかなう直系の男子が全て途絶え
てしまいます。
これをもってフランクフルトのロスチャイルド家の「家名」は無くな
ります。しかし、ヴィルヘルムの嫁いだ相手ゴールドシュミット家は、
その弟の孫として1933年に生まれた、ジェームズ・ゴールドスミス
という怪物へ、ロスチャイルド家の商法ごと引き継がれることとなり
ます。
こうして2家の名は消滅しましたが、彼等の相互保障の関係からすれ
ば、想定内の出来事といえるでしょう。それでは、各国へ散った兄弟同
士が戦火にまみれる、第一次世界大戦へむけての事態はどうだったの
でしょうか。
★ 殺戮兵器に国境なし
第一次世界大戦前の「大砲・鉄砲」の分野のメーカーは数が限られ、
イギリスのアームストロング社及びフランスのシュネーデル社
が独占的は製造力をもっていました。
各国の王侯や支配者は、同じ会社の武器を取り合って殺し合いをして
いたばかりか、この二社は敵対する互いの母国にも武器を売りつけ、
ヨーロッパ全土の火の粉をふりまいていました。
一方ドイツでは、クルップ社が18世紀の半ばに、既に鉄砲に使用す
る強靭な鋼を完成させていましたが、この2社の独占体制に割って入る
ことが出来ずにいました。
しかし、1851年の開かれた世界最初の万国博覧会でその「真っ白
な鋼の砲身」が各国に注目され、クルップ社には将来敵国となるフラン
ス等からも注文が舞い込むようになります。
★ 怪人ザハロフとヴィッカース社
さて、第四の鉄砲メーカーが、奇妙な経過を辿って現れます。アメリ
カ人のハイラム・マクシムは、大西洋を渡って、オーストリア・ハンガ
リー帝国のフランツ・ヨーゼフ皇帝の前で、当時世界一と目された
「マクシム銃」を披露します。
しかし、これを「我が物」という誤報を流して乗っ取ってしまった男がい
ました。正式名をもたない怪人ザハロフでした。おかげで、マクシムには
一件の注文も入らず、ザハロフと手を組まざるを得なくなります。
その後彼はマクシム社を立ち上げ、1884年に「機関銃」を完成すると、
その4年後に、ザハロフの取り成しにより、造成・兵器会社のノルデンフェ
ルト社と、13年後にはザハロフの立ち上げた兵器会社ヴィッカース社と
合併します。
さらに、オーストリア帝国(後にチャロスロバキア)のシュコダ、ロシ
アのプティロフが出揃うと、ザハロフはこの6社の間を巧みに取り持ち、
互いの技術と兵器量を補完しあうという、「死の商人」のカルテルを作
り上げていきます。
一例として、クルップ社が「世界一の信管」を完成させると、ザハロフは
ヴィッカース社の代理人として、その技術を買取り、「砲弾1発ごとに、
その特許料を1シリング3ペンス支払う」という契約を結びます。
第一次世界大戦では、連合軍兵がドイツ兵目がけて1発撃つのと同時
に、ドイツに1シリング3ペンス支払っていたことになるのです。
そして、マクシム社と合併する際、ヴィッカース新会社の株式を発行
したのがロスチャイルド銀行でした。また、クルップ社が工場拡大の際
にも、ロスチャイルド銀行がシンジゲート団として融資に名を連ねてい
ました。
また、アームストロング社の創業者、ウィリアム・アームストロングの右
腕と称されたジョージ・レンデルは、ロスチャイルド家と姻戚関係に
あります。まさにロスチャイルド家にとって、世界大戦は、基本的には、
またとないビジネス・チャンスのひとつでした。
★ ドイツ3大銀行の誕生
第一次大戦前直前、今やのドイツの大富豪の第一位は「大砲王」クル
ップ家のベルタ令嬢。前述のゴールドシュミット=ロスチャイルド家は
第三位となっていました。
ユダヤ嫌いのクルップ家でしたが、しかしまた、ロスチャイルド家の支配
するヴィッカース社からは砲弾の特許料をもらっており、そのおかげで
の一位でもあるという、複雑な関係でした。
一方、19世紀の後半のドイツでは、次々と新興産業家が誕生していま
した。その一つが、ジーメンス社で、遠距離電信法を発明したヴェルナー
・ジーメンスは1847年にベルリンに電信機製造会社を設立します。
クルップ社は、電信や鉄鋼の分野で、早くからジーメンス社と手を組
み、軍需産業でドイツを引っ張っていきます。そして1870年、ヴェルナー
の従兄ゲオルグは、ドイツ銀行を設立します。
また、同じ年に、コメルツ銀行、ドレスデン銀行という、2008年までドイ
ツ3大銀行と呼ばれていた銀行がそろって誕生します。
今まで金融界を支配してきた、赤い楯の系列銀行-ロスチャイルド銀行、
ディスコント銀行、ダルムシュタット銀行にとっては、初めてのライバル
銀行の出現でした。しかしながら、19世紀末までは、工業界全体が産業
革命直後の共同事業状態にあったため、際立った競争はみられません
でした。
★ 自動車産業とロックフェラーの参入
しかし、そこに新たな産業が登場します。1885年にはゴッドリーブ・
ダイムラーがエンジン付き自動車を、1886年にはカール・ベンツが三輪
自動車を発明し、ドイツにダイムラー・ベンツ社が生まれます。
その後1905年には、1900年に電気自動車を発明したオーストリアの
フェルディナント・ポルシェが移籍し、ヒットラーのもとでフォルクス・ワー
ゲンを生み出すことになります。
ここに、経済界の主役は、車を動かすもの「石油」へ手渡されます。しか
し、当時ヨーロッパの石油は、1883年にバクー油田での生産を制してい
たパリ・ロスチャイルド家が握っていました。
しかし、ボルネオ島の油田開発に成功した、オランダのロイヤル・ダッチ
石油が1897年に設立され、さらに1899年、アメリカ大陸で全米の石油を
手中に収めた、石油王ロックフェラーがドイツ・モービルを設立すると、
ヨーロッパで石油の販売合戦が始まります。
さらに、1904年、ルーマニアの油田に進出を果たしたドイツ銀行が、
ドイツ石油を設立すると、ロシア、中近東、アジアの油田を巡っての、ロス
チャイルドVSロックフェラーVSクルップという三つ巴の利権争いとなりま
す。
こうして、新興の金融勢力による初の挑戦を受けたロスチャイルド財閥
でしたが、それ自体が脅威というわけではありませんでした。
実際、ロックフェラーが1895年の石油価格を巡ってのロスチャイルド、ノ
ーベルとの協定を破って、ダンピング攻勢に出ますが、逆に徹底的な叩き
潰しによって勝利しています。
こうした情勢の中、時代は第一次世界大戦へと突入してゆきます。その陰
には、この大戦を操る者達がいました。次回第三十三夜では、その辺りから
ふれてゆこうと思います。
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