2010.05.02
トンデモ話は奥で繋がる(25) 22.5.2
トンデモ話は奥で繋がる 「第二十五夜」
-弟子のクッテネルがお送りします。
≪原子力発電のウソに気をつけろ②≫
★ 「無能な設備だから取り外せ?」

さて、今回は同じく「広瀬隆」
の『新版 眠れない話~刻
々と迫りくる日本の大事故』
の掲載事項が中心となります。
これは前回の『危険な話』の
続報として、1988年10月、八月
書簡から刊行された『眠れない
話』を大幅加筆し、文庫版として、
1991年6月に発行されたもの
です。
折りしも、筆者が文庫版を執筆
している最中の1991年2月9日
に、関西電力の福井・美浜2号
原発で、蒸気発生器が破断し、
日本で始めて「緊急炉心冷却
装置(ECCS)」が作動した事故
です。
実は、「ECCS」については、以前からその誤作動により、原子炉が停止して
しまうことが度々起こっており、「チェルノブイリ原発事故」の起こるわずか半月
前には、当時の原子力産業会議の会長であった「有沢広巳」が「不要な設
備だから取り外せ」と言ったのを受けて、その方向で話が進んでいたのです。
今回の事故は、「ECCSが正常に作動」して事態が収拾したので
はなく、皮肉にも「ECCS」が言葉どおり「無くてもかわらない無
能な設備」であることを証明してしまったのです。
★ たった細管一本の破断から始まる恐怖
略図に記したとおり、美浜2号原発は「加圧水型」の原子炉で、格
納容器の中央での核反応によって発生した熱水を、蒸気発生器に導い
て、その熱で水蒸気を発生させ、その蒸気圧でタービンを回して発電
するものです。
このシステムでは、通常は放射能を含んだ一次系統の水は、蒸気発
生器の「細菅」を通じて、その熱だけを二次系統の水へ伝えるため、
点線で示した「原子炉格納容器」の外に放射能が漏れることはありま
せん。
この蒸気発生器は、A、Bの2系統に分かれており、今回の事故は
A系統の蒸気発生器の「細管」のひとつが「ギロチン破断」、つまり
瞬間的にスパッと横方向に切れてしまったものです(×印参照)。
「細管」に穴があくだけで、一次系統の水は高熱・高圧の水蒸気と
なって二次系統の水と混合、同時にタービンを回す蒸気にも漏れ出し
ます。そして、前者は放出路から海中へ、後者は大気中へと拡散して
ゆきます。
著書では、この経緯を、時間を追って刻々
と記載しています。
以下、略図の番号を追いながら見ていただ
きたいと思います。
《↑画像をクリックすると拡大表示されます。同署のp174-175を参考記載》
★ 電力会社の「危険(を)回避(しない)マニュアル」
午後0時40分 二次系統の水から高い放射能が検出されます。し
かし運転員は、通常もよくある「測定器」の異常
と考え、「液体のサンプリング」にとどめてしま
います。
午後1時20分 分析の結果、「一次冷却水の漏れ」と判定されま
すが、関西電力の運転マニュアル『放出量が充分小
さい場合は運転を停止しない』というあいまいな基準
に従い、運転を続行します。
午後1時40分 ① タービン系のガス・モニターが「高濃度の放
射能」を探知し、500個中、50個のパネルが警
報と点滅を始めます。
午後1時45分 ② 海上放出系の放射能モニターも警報を発信し
ます。まさにこの時、細管は「ギロチン破断」に至って
います。
午後1時45分 ③ 一次系統の水が漏れ出したことにより、加圧
器の水位が一気にゼロを示します。
原子炉内の一次系統の水は、320℃の高温にも関わらず「液体」
のまま循環させるために、③の加圧器内部のヒーターで水蒸気を発
生させて水面を押し下げ、157気圧もの高圧を作り出しています。
減圧するには⑩のホウ酸水の噴出ノズルから冷水を噴出します。
圧力をかけることで、炉心に「水」を満たしているため、これが
ゼロ気圧となれば、炉心の水位は全く把握できず、「カラ焚き状態」
となる危険性に直結します。
★ メルトダウン寸前の危機へ
午後1時48分 ④ 事故の様相がつかめないまま、運転員は、運転
停止のための29個の「制御棒」の手動挿入を開始しま
す。
午後1時50分 炉心の圧力が危険限界の134気圧に下がったため、
「制御棒」が自動的に挿入される「スクラム停止」の状態に
突入し、運転員は初めて事の重大さを認識します。
⑤ 7.2秒後には設計どおり「ECCS」が作動モードにな
るものの、注入圧力が103気圧しかない設計のため、
しばらくは放水不能でした。
一見、炉心圧力は下がった方が安全のように思いますが、実際
はその逆なのです。高圧をかけて「液体」に保っていた一次冷却水が、
沸騰し始めることで、燃料棒(酸化ウラン)を破損させます。
また、水位が下がることで、燃料棒の熱を奪えなくなり、炉心融解
(メルトダウン)という最悪の事態となるのです。
午後1時55分 炉心圧力が95気圧まで下がったことで、「ECC
S」がようやく注入状態となります。
ただし、5基ある「ECCS」のうち、注入を開始したのは
1基のみでした。他の4基は50気圧以下でないと注入
できない代物だったのです。
午後1時55分 ⑥ 運転員は、A系統の二次系統の流れを遮断する
ために、A系統の「主蒸気隔離弁」を閉じようとしました
が、噴出する水蒸気の圧力が強く、システムによる閉鎖
が出来ませんでした。
そのため、作業員の手動による作業に切り替えられ、7
分後に閉鎖されます。
この作業は、原子炉をB系統のみの「片肺運転」として、B系統の
みで「炉心の冷却作業」を行おうとして行われたものでした。
しかし、「ECCS」がまともに作動しない中、炉心の熱を冷やし
うる二次系統の流れを半分にしてしまったことで、かえって炉心融解
の危険性を高めることとなるとともに、2時19分の事態の呼び水と
なりました。
午後2時 2分 ⑦ 前作業のために、炉心の水温が急上昇し、発生
した水蒸気圧により、炉心の圧力が再び上昇し始めたため、
運転員はやむを得ずB系統の「水蒸気逃し弁」を開いて、
圧力を下げようとします。
しかし、十分な効果は得られず、2時17分まで、
放射能を含んだ水蒸気が美浜の大気中に放出される
ことになります。
午後2時 9分 炉心に溜まった水蒸気で、気圧が再び100気圧を
超え、「ECCS」での冷却水の注入が再びストップし、
最大の危機を迎えます。
そのため、通常は炉心の水を補填するために使用さ
される充填ポンプを3台をフル稼働させたところ、炉内
温度はようやく下がり始めます。
★ 危機を救った危険な「賭け」
しかし、それでもまだ危機が去ったわけではありませんでした。
午後2時10分 ⑧ 温度が下がったことで、水蒸気を増やさずに、
原子炉圧力を下げる絶好のチャンスと見た運転員
は、原子炉自体の加圧器の「圧力逃し弁」を開くため
のスイッチを入れます。
ところが、この一番肝心な時に、2個ある弁が
両方とも作動しませんでした。必死に電気系統の
故障を調べますが、原因不明でした。
アメリカの「スリーマイル島原発事故」では、この「圧力逃し弁」
が逆に「開きっぱなし」になったことで、冷却水の大部分が水蒸気
となって、炉心から出てしまい、炉心温度が上がり続けメルトダウ
ンに至っています。
ここでは、単に「開かない」のか、或いはスリーマイル同様、「圧
力逃し弁」そのものが破壊されてしまったという、最悪の状況も考え
られ、全員がパニック状態に陥ったのです。
③で加圧器の気圧がゼロとなってしまったため、この時点で、炉心
の水位を知る手がかりはありませんでした。
午後2時19分 ⑨ チャンスを失った炉心温度は、再び上昇に転じ
ます。
この時、前の⑥で閉じられた「主蒸気隔離弁」によって、
行き場を失ったA系統の水蒸気が、A系統側の⑦「水蒸
気逃し弁」を押し上げて、噴出しました。
午後2時25分 ⑧ 「圧力逃し弁」は作動不能との判断が下されま
す。それは、最終手段に踏み切るかどうかの決断を意
味していました。
午後2時34分 ⑩ ここで、運転員は『加圧器の水位はゼロを示し
ているものの、炉心には十分水がある』という仮定に
「賭け」、「加圧器」の「減圧スプレー」を噴射します。
もし、水か少量しか残っていなければ、減圧することで、
炉心の水は瞬間的に水蒸気と化し、燃料棒を破壊す
るという最悪の状態となってしまいます。
結果として、この「賭け」は「吉」とでました。
「加圧器」の水位計はぐんぐんと上昇します。炉心
には充分な水があり、「加圧器」の中へ逆流してき
たのです。
★ 最後まで無能だった「ECCS」
ところが、ようやく事故処理の終了局面に入ったにもかかわらず、減
圧したことで、無能の「ECCS」が再び炉心への注入を始めてしまい
ます。
午後2時39分 ⑪ 「ECCS」の注入水により、再び大量の水蒸
気が発生し、A系統の⑦「水蒸気逃し弁」を再び押
し上げて噴出します。
この時点で「作業マニュアル」どおりに従えば、「ECCS」は
『加圧器の「圧力逃し弁」を閉止、炉心の水位の再上昇の確認後』
でなければ「停止」してはならないことになっていました。しかし、
問題の「圧力逃し弁」は作動不能、原子炉の水位も「仮定」さぜる
を得ない状況です。
しかし、このままでは「ECCS」が過剰な水を送り込むことで
蒸気発生器に過大な付加がかかる危険性があり、運転員は「マニュ
アル」を破って「ECCS」を手動停止します。
午後2時42分 ⑫ 運転員は過剰な水蒸気を逃すため、再びB系統
の「水蒸気逃し弁」を開放し、約30分間に渡って放射能
の混じった水蒸気を美浜の大気中に放出します。
止むを得ない対応であったとはいえ、何故「原子炉格納
容器」内への放出設計にされていないのかと広瀬氏は
問いただしています。
午後2時48分 これらの作業により、原子炉側の圧力が60気圧に
下がり、タービン側の圧力とほぼ同じになります。
放射能の流出は一瞬止まったものの、その後も断続
的な流出が続きます。
午後3時25分 放射能の流出が完全に停止。ギロチン破断から1時
間40分後のことでした。
★ この危険な「圧力釜」を扱いきれるのか
以上が「日本初のECCS稼動事故」の実態です。この事故は「制御
棒の挿入」で終わったのでも、「ECCSの作動」で終わったのでもあ
りません。運転員の一か八かの「賭け」が、幸運にも「日本の終わり」
(チェルノブイリ級の事故が起これば、56時間以内に放射能雲が日本
全土にかかることになっていました。)を回避したのです。
この事故から、少なくとも4つの「原子炉の構造上の欠陥」が見えて
きます。
① 「加圧器」の水位がゼロになってしまった瞬間、原子炉内の水位
を知る手段が全く無くなり、安全な「減圧」「冷却」の方法が無く
なること。
② いかなる原子炉内圧力であっても作動できる「ECCS]の注入
圧力が保たれていないこと。
③ 「水蒸気隔離弁」が「事故時」の蒸気圧力に耐えらず作動しない
こと。
④ 「蒸気逃し弁」は、水蒸気を直接大気中に逃す構造であるため、
「事故時」に「二次系統の冷却水」に放射能が漏れた場合、その
使用が即「放射能漏れ」につながること。
事故当時から約20年が経った今、これらの構造上の欠陥はいくらか
改善されているかもしれません。しかし、仮にそうであっても、果たし
て「事故時」の安全な対処方法があるのでしょうか。
「原子炉」を「圧力釜」と比較してみましょう。「圧力釜」は、料理
には重宝なものの、蓋をしたまま加熱することには、少々「気味悪さ」
あります。
しかし「圧力釜」には、漏れても危険なく扱える「蒸気逃しの独楽」
が付いています。また、基本的には、どんな場合でもゆっくりと「減圧」
又は「冷却」すれば暴発の危険性はありません。
ところが、「原子炉」は「蒸気逃し」を閉じたまま使う「圧力釜」で
す。しかも、「減圧」や「冷却」しようとする行為が、逆に「加圧」や
「発熱」を呼び込んでしまうのです。これでは、ただ「豆」を煮るのだ
としても、誰も使いたがらないのではないでしょうか。
前二十四夜で、以前は『原爆と原発をどうレベルで考えてはいけない』
と考えていたと言いましたが、この著書に出会って、『原発は原爆を少し
づつ点火するものに過ぎない』という考え方にかわりました。
★ 「もんじゅ」の「浅知恵」
さて、この記事を書いている最中の4月28日、福井県の西川知事が、
1995年の「ナトリウム漏れ事故」以来14年間停止していた、高速増殖
原型炉 「もんじゅ」の運転再開を了承したというニュースが伝えられ
ました。
「高速増殖炉」とは、燃料として、通常の「原子炉」で、放射性廃棄物と
して生成される「プルトニウム」を燃料として使用し、さらに新しい「プル
トニウム」を生み出すということで、かつては「夢のエネルギー」と呼ばれ
た時代もありました。
しかし、「プルトニウム」はウランより数倍高い放射性を持つ上、半
減期は2万4000年と、人類にとってはぼ半永久的に放射能管理をし
なければならない代物です。
しかも生成されるプルトニウムは、「プルトニウム239」という、そのま
ま「核兵器」として使用可能な恐ろしいものです。
そして、何よりも危険なのは、「冷却媒体」として、469℃という高温の
「液体ナトリウム」を使用することです。
「ナトリウム」については、小生の高校時代、忘れられない「化学実
験」がありました。
通常の化学の時間に、水を満たしたビーカーに、5㎜角程度の「金属
ナトリウム」を入れて反応をみるという実験をされた方も見えると思いま
す。ナトリウムのかけらは、水中で蒸気を立てながらみるみる小さくなり、
やがて水面に上昇するなり、一瞬「発火」して消滅し、その「親水性」
の激しさを実感するものでした。
その後、ある年の「文化祭」で、突然「校内放送」が入り、『今から
化学部のイベントとして、「ナトリウムの爆発実験」をするので、見学
者は校庭には近づかず、校舎の陰で見学するように』とのアナウンスが
ありました。
他のイベントに比べ地味と思われたのか、見学者はあまりいない中、
科学部の部員が、水の入ったそうじのバケツを校庭の真ん中まで運
んで行きます。
その後、今度は科学部の顧問の先生が、「野球のボール大」の「ナト
リウム」を持ってバケツに放り込むと、一目散にこちらへ走ってきます。
正直、「随分と大げさだなぁ」と思って眺めていたその瞬間、「ドスッ」とい
う鈍い爆発音とともに、バケツの水は10m以上の水柱を上げて、飛び
散ったのでした。小生がナトリウムの危険性を思い知った瞬間でした。
この代物を、一・二次冷却水の代わりに「原子炉」内を循環させ、そ
の熱を、細管を隔てた「三次冷却水」に伝えるというものです。タダの
水でさえ、細管1本の「破断」で一触即発の事態を引き起こすというの
に、「ナトリウム」であれば、小さな穴があいただけでも大爆発です。
そうなれば、「制御棒」も「ECCS」も関係ありません。システム
そのものが一瞬で崩壊するのです。誰にこんなものを「認める」権限が
あるのでしょうか。まさに「知恵」のある者ならするはずのない方法な
のです。
さて、次回第二十六夜からは、何故このような危険な発電方法が罷り
通っているのかを述べてゆきたいと思います。
目次のペーシへはこちらから
-弟子のクッテネルがお送りします。
≪原子力発電のウソに気をつけろ②≫
★ 「無能な設備だから取り外せ?」

さて、今回は同じく「広瀬隆」
の『新版 眠れない話~刻
々と迫りくる日本の大事故』
の掲載事項が中心となります。
これは前回の『危険な話』の
続報として、1988年10月、八月
書簡から刊行された『眠れない
話』を大幅加筆し、文庫版として、
1991年6月に発行されたもの
です。
折りしも、筆者が文庫版を執筆
している最中の1991年2月9日
に、関西電力の福井・美浜2号
原発で、蒸気発生器が破断し、
日本で始めて「緊急炉心冷却
装置(ECCS)」が作動した事故
です。
実は、「ECCS」については、以前からその誤作動により、原子炉が停止して
しまうことが度々起こっており、「チェルノブイリ原発事故」の起こるわずか半月
前には、当時の原子力産業会議の会長であった「有沢広巳」が「不要な設
備だから取り外せ」と言ったのを受けて、その方向で話が進んでいたのです。
今回の事故は、「ECCSが正常に作動」して事態が収拾したので
はなく、皮肉にも「ECCS」が言葉どおり「無くてもかわらない無
能な設備」であることを証明してしまったのです。
★ たった細管一本の破断から始まる恐怖
略図に記したとおり、美浜2号原発は「加圧水型」の原子炉で、格
納容器の中央での核反応によって発生した熱水を、蒸気発生器に導い
て、その熱で水蒸気を発生させ、その蒸気圧でタービンを回して発電
するものです。
このシステムでは、通常は放射能を含んだ一次系統の水は、蒸気発
生器の「細菅」を通じて、その熱だけを二次系統の水へ伝えるため、
点線で示した「原子炉格納容器」の外に放射能が漏れることはありま
せん。
この蒸気発生器は、A、Bの2系統に分かれており、今回の事故は
A系統の蒸気発生器の「細管」のひとつが「ギロチン破断」、つまり
瞬間的にスパッと横方向に切れてしまったものです(×印参照)。
「細管」に穴があくだけで、一次系統の水は高熱・高圧の水蒸気と
なって二次系統の水と混合、同時にタービンを回す蒸気にも漏れ出し
ます。そして、前者は放出路から海中へ、後者は大気中へと拡散して
ゆきます。

と記載しています。
以下、略図の番号を追いながら見ていただ
きたいと思います。
《↑画像をクリックすると拡大表示されます。同署のp174-175を参考記載》
★ 電力会社の「危険(を)回避(しない)マニュアル」
午後0時40分 二次系統の水から高い放射能が検出されます。し
かし運転員は、通常もよくある「測定器」の異常
と考え、「液体のサンプリング」にとどめてしま
います。
午後1時20分 分析の結果、「一次冷却水の漏れ」と判定されま
すが、関西電力の運転マニュアル『放出量が充分小
さい場合は運転を停止しない』というあいまいな基準
に従い、運転を続行します。
午後1時40分 ① タービン系のガス・モニターが「高濃度の放
射能」を探知し、500個中、50個のパネルが警
報と点滅を始めます。
午後1時45分 ② 海上放出系の放射能モニターも警報を発信し
ます。まさにこの時、細管は「ギロチン破断」に至って
います。
午後1時45分 ③ 一次系統の水が漏れ出したことにより、加圧
器の水位が一気にゼロを示します。
原子炉内の一次系統の水は、320℃の高温にも関わらず「液体」
のまま循環させるために、③の加圧器内部のヒーターで水蒸気を発
生させて水面を押し下げ、157気圧もの高圧を作り出しています。
減圧するには⑩のホウ酸水の噴出ノズルから冷水を噴出します。
圧力をかけることで、炉心に「水」を満たしているため、これが
ゼロ気圧となれば、炉心の水位は全く把握できず、「カラ焚き状態」
となる危険性に直結します。
★ メルトダウン寸前の危機へ
午後1時48分 ④ 事故の様相がつかめないまま、運転員は、運転
停止のための29個の「制御棒」の手動挿入を開始しま
す。
午後1時50分 炉心の圧力が危険限界の134気圧に下がったため、
「制御棒」が自動的に挿入される「スクラム停止」の状態に
突入し、運転員は初めて事の重大さを認識します。
⑤ 7.2秒後には設計どおり「ECCS」が作動モードにな
るものの、注入圧力が103気圧しかない設計のため、
しばらくは放水不能でした。
一見、炉心圧力は下がった方が安全のように思いますが、実際
はその逆なのです。高圧をかけて「液体」に保っていた一次冷却水が、
沸騰し始めることで、燃料棒(酸化ウラン)を破損させます。
また、水位が下がることで、燃料棒の熱を奪えなくなり、炉心融解
(メルトダウン)という最悪の事態となるのです。
午後1時55分 炉心圧力が95気圧まで下がったことで、「ECC
S」がようやく注入状態となります。
ただし、5基ある「ECCS」のうち、注入を開始したのは
1基のみでした。他の4基は50気圧以下でないと注入
できない代物だったのです。
午後1時55分 ⑥ 運転員は、A系統の二次系統の流れを遮断する
ために、A系統の「主蒸気隔離弁」を閉じようとしました
が、噴出する水蒸気の圧力が強く、システムによる閉鎖
が出来ませんでした。
そのため、作業員の手動による作業に切り替えられ、7
分後に閉鎖されます。
この作業は、原子炉をB系統のみの「片肺運転」として、B系統の
みで「炉心の冷却作業」を行おうとして行われたものでした。
しかし、「ECCS」がまともに作動しない中、炉心の熱を冷やし
うる二次系統の流れを半分にしてしまったことで、かえって炉心融解
の危険性を高めることとなるとともに、2時19分の事態の呼び水と
なりました。
午後2時 2分 ⑦ 前作業のために、炉心の水温が急上昇し、発生
した水蒸気圧により、炉心の圧力が再び上昇し始めたため、
運転員はやむを得ずB系統の「水蒸気逃し弁」を開いて、
圧力を下げようとします。
しかし、十分な効果は得られず、2時17分まで、
放射能を含んだ水蒸気が美浜の大気中に放出される
ことになります。
午後2時 9分 炉心に溜まった水蒸気で、気圧が再び100気圧を
超え、「ECCS」での冷却水の注入が再びストップし、
最大の危機を迎えます。
そのため、通常は炉心の水を補填するために使用さ
される充填ポンプを3台をフル稼働させたところ、炉内
温度はようやく下がり始めます。
★ 危機を救った危険な「賭け」
しかし、それでもまだ危機が去ったわけではありませんでした。
午後2時10分 ⑧ 温度が下がったことで、水蒸気を増やさずに、
原子炉圧力を下げる絶好のチャンスと見た運転員
は、原子炉自体の加圧器の「圧力逃し弁」を開くため
のスイッチを入れます。
ところが、この一番肝心な時に、2個ある弁が
両方とも作動しませんでした。必死に電気系統の
故障を調べますが、原因不明でした。
アメリカの「スリーマイル島原発事故」では、この「圧力逃し弁」
が逆に「開きっぱなし」になったことで、冷却水の大部分が水蒸気
となって、炉心から出てしまい、炉心温度が上がり続けメルトダウ
ンに至っています。
ここでは、単に「開かない」のか、或いはスリーマイル同様、「圧
力逃し弁」そのものが破壊されてしまったという、最悪の状況も考え
られ、全員がパニック状態に陥ったのです。
③で加圧器の気圧がゼロとなってしまったため、この時点で、炉心
の水位を知る手がかりはありませんでした。
午後2時19分 ⑨ チャンスを失った炉心温度は、再び上昇に転じ
ます。
この時、前の⑥で閉じられた「主蒸気隔離弁」によって、
行き場を失ったA系統の水蒸気が、A系統側の⑦「水蒸
気逃し弁」を押し上げて、噴出しました。
午後2時25分 ⑧ 「圧力逃し弁」は作動不能との判断が下されま
す。それは、最終手段に踏み切るかどうかの決断を意
味していました。
午後2時34分 ⑩ ここで、運転員は『加圧器の水位はゼロを示し
ているものの、炉心には十分水がある』という仮定に
「賭け」、「加圧器」の「減圧スプレー」を噴射します。
もし、水か少量しか残っていなければ、減圧することで、
炉心の水は瞬間的に水蒸気と化し、燃料棒を破壊す
るという最悪の状態となってしまいます。
結果として、この「賭け」は「吉」とでました。
「加圧器」の水位計はぐんぐんと上昇します。炉心
には充分な水があり、「加圧器」の中へ逆流してき
たのです。
★ 最後まで無能だった「ECCS」
ところが、ようやく事故処理の終了局面に入ったにもかかわらず、減
圧したことで、無能の「ECCS」が再び炉心への注入を始めてしまい
ます。
午後2時39分 ⑪ 「ECCS」の注入水により、再び大量の水蒸
気が発生し、A系統の⑦「水蒸気逃し弁」を再び押
し上げて噴出します。
この時点で「作業マニュアル」どおりに従えば、「ECCS」は
『加圧器の「圧力逃し弁」を閉止、炉心の水位の再上昇の確認後』
でなければ「停止」してはならないことになっていました。しかし、
問題の「圧力逃し弁」は作動不能、原子炉の水位も「仮定」さぜる
を得ない状況です。
しかし、このままでは「ECCS」が過剰な水を送り込むことで
蒸気発生器に過大な付加がかかる危険性があり、運転員は「マニュ
アル」を破って「ECCS」を手動停止します。
午後2時42分 ⑫ 運転員は過剰な水蒸気を逃すため、再びB系統
の「水蒸気逃し弁」を開放し、約30分間に渡って放射能
の混じった水蒸気を美浜の大気中に放出します。
止むを得ない対応であったとはいえ、何故「原子炉格納
容器」内への放出設計にされていないのかと広瀬氏は
問いただしています。
午後2時48分 これらの作業により、原子炉側の圧力が60気圧に
下がり、タービン側の圧力とほぼ同じになります。
放射能の流出は一瞬止まったものの、その後も断続
的な流出が続きます。
午後3時25分 放射能の流出が完全に停止。ギロチン破断から1時
間40分後のことでした。
★ この危険な「圧力釜」を扱いきれるのか
以上が「日本初のECCS稼動事故」の実態です。この事故は「制御
棒の挿入」で終わったのでも、「ECCSの作動」で終わったのでもあ
りません。運転員の一か八かの「賭け」が、幸運にも「日本の終わり」
(チェルノブイリ級の事故が起これば、56時間以内に放射能雲が日本
全土にかかることになっていました。)を回避したのです。
この事故から、少なくとも4つの「原子炉の構造上の欠陥」が見えて
きます。
① 「加圧器」の水位がゼロになってしまった瞬間、原子炉内の水位
を知る手段が全く無くなり、安全な「減圧」「冷却」の方法が無く
なること。
② いかなる原子炉内圧力であっても作動できる「ECCS]の注入
圧力が保たれていないこと。
③ 「水蒸気隔離弁」が「事故時」の蒸気圧力に耐えらず作動しない
こと。
④ 「蒸気逃し弁」は、水蒸気を直接大気中に逃す構造であるため、
「事故時」に「二次系統の冷却水」に放射能が漏れた場合、その
使用が即「放射能漏れ」につながること。
事故当時から約20年が経った今、これらの構造上の欠陥はいくらか
改善されているかもしれません。しかし、仮にそうであっても、果たし
て「事故時」の安全な対処方法があるのでしょうか。
「原子炉」を「圧力釜」と比較してみましょう。「圧力釜」は、料理
には重宝なものの、蓋をしたまま加熱することには、少々「気味悪さ」
あります。
しかし「圧力釜」には、漏れても危険なく扱える「蒸気逃しの独楽」
が付いています。また、基本的には、どんな場合でもゆっくりと「減圧」
又は「冷却」すれば暴発の危険性はありません。
ところが、「原子炉」は「蒸気逃し」を閉じたまま使う「圧力釜」で
す。しかも、「減圧」や「冷却」しようとする行為が、逆に「加圧」や
「発熱」を呼び込んでしまうのです。これでは、ただ「豆」を煮るのだ
としても、誰も使いたがらないのではないでしょうか。
前二十四夜で、以前は『原爆と原発をどうレベルで考えてはいけない』
と考えていたと言いましたが、この著書に出会って、『原発は原爆を少し
づつ点火するものに過ぎない』という考え方にかわりました。
★ 「もんじゅ」の「浅知恵」
さて、この記事を書いている最中の4月28日、福井県の西川知事が、
1995年の「ナトリウム漏れ事故」以来14年間停止していた、高速増殖
原型炉 「もんじゅ」の運転再開を了承したというニュースが伝えられ
ました。
「高速増殖炉」とは、燃料として、通常の「原子炉」で、放射性廃棄物と
して生成される「プルトニウム」を燃料として使用し、さらに新しい「プル
トニウム」を生み出すということで、かつては「夢のエネルギー」と呼ばれ
た時代もありました。
しかし、「プルトニウム」はウランより数倍高い放射性を持つ上、半
減期は2万4000年と、人類にとってはぼ半永久的に放射能管理をし
なければならない代物です。
しかも生成されるプルトニウムは、「プルトニウム239」という、そのま
ま「核兵器」として使用可能な恐ろしいものです。
そして、何よりも危険なのは、「冷却媒体」として、469℃という高温の
「液体ナトリウム」を使用することです。
「ナトリウム」については、小生の高校時代、忘れられない「化学実
験」がありました。
通常の化学の時間に、水を満たしたビーカーに、5㎜角程度の「金属
ナトリウム」を入れて反応をみるという実験をされた方も見えると思いま
す。ナトリウムのかけらは、水中で蒸気を立てながらみるみる小さくなり、
やがて水面に上昇するなり、一瞬「発火」して消滅し、その「親水性」
の激しさを実感するものでした。
その後、ある年の「文化祭」で、突然「校内放送」が入り、『今から
化学部のイベントとして、「ナトリウムの爆発実験」をするので、見学
者は校庭には近づかず、校舎の陰で見学するように』とのアナウンスが
ありました。
他のイベントに比べ地味と思われたのか、見学者はあまりいない中、
科学部の部員が、水の入ったそうじのバケツを校庭の真ん中まで運
んで行きます。
その後、今度は科学部の顧問の先生が、「野球のボール大」の「ナト
リウム」を持ってバケツに放り込むと、一目散にこちらへ走ってきます。
正直、「随分と大げさだなぁ」と思って眺めていたその瞬間、「ドスッ」とい
う鈍い爆発音とともに、バケツの水は10m以上の水柱を上げて、飛び
散ったのでした。小生がナトリウムの危険性を思い知った瞬間でした。
この代物を、一・二次冷却水の代わりに「原子炉」内を循環させ、そ
の熱を、細管を隔てた「三次冷却水」に伝えるというものです。タダの
水でさえ、細管1本の「破断」で一触即発の事態を引き起こすというの
に、「ナトリウム」であれば、小さな穴があいただけでも大爆発です。
そうなれば、「制御棒」も「ECCS」も関係ありません。システム
そのものが一瞬で崩壊するのです。誰にこんなものを「認める」権限が
あるのでしょうか。まさに「知恵」のある者ならするはずのない方法な
のです。
さて、次回第二十六夜からは、何故このような危険な発電方法が罷り
通っているのかを述べてゆきたいと思います。
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