2014.08.23
忘れたものは...
のちのおもひに 立原道造
夢はいつもかへって行った。山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しずまりかへった午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠っていた。
-そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいていないと知りながら 語りつづけた.....
夢はそのさきには もういかない
なにもかも忘れ果てようと思ひ
忘れつくしたことさえ 忘れてしまったときには
夢は真冬の追憶のうちに凍るであらう。
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道をすぎさるであろう
忘れるということ。人は忘れてしまうのをおそれるが、意外と自らが忘れようと心におもったことがあるのだろう...
忘れたことさえ忘れてしまった...追憶のなかに凍った記憶。それは、いつかは溶け出し、うたを歌いだす。
そのときが自分を思い出す時なのかもしれない。
夢はいつもかへって行った。山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しずまりかへった午さがりの林道を
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠っていた。
-そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいていないと知りながら 語りつづけた.....
夢はそのさきには もういかない
なにもかも忘れ果てようと思ひ
忘れつくしたことさえ 忘れてしまったときには
夢は真冬の追憶のうちに凍るであらう。
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道をすぎさるであろう
忘れるということ。人は忘れてしまうのをおそれるが、意外と自らが忘れようと心におもったことがあるのだろう...
忘れたことさえ忘れてしまった...追憶のなかに凍った記憶。それは、いつかは溶け出し、うたを歌いだす。
そのときが自分を思い出す時なのかもしれない。
2014.08.22
人の心とは-高校時代-
はじめてのものに
立原道造
ささやかな地異は そのかたみに
灰を降らした この村に ひとしきり
灰はかなしい追憶のように 音立てて
樹木の梢に 家々の 屋根に降りしきった
その夜 月は明るかったが 私はひとと
窓に凭れて語り合った (その窓からは山の姿が見えた)
部屋の隅々に 峡谷のように 光と
よくひびく笑ひ声が溢れていた
-人の心を知ることは.....人の心とは....
私は その人が蛾を追う手つきを あれは蛾を
捉へようとするのだらうか 何かいぶかしかった
いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか
火の山の物語と.....また幾夜さかは 果たして夢に
その夜習ったエリザベートの物語を織った
高校時代、国語の教科書で立原道造の詩を知った。
当時、国語の先生は京大をでて一年たったぐらいの若い先生で、立原道造の青春、恋人なんかについてもくわしく語ってくれて何枚も美しい詩をガリ版で刷ってくれた。
はじめてのものに は、その先生が絶賛し、わたしも一目みるなり甘美な繊細さに魅了された詩だ。
-人の心をしることは....何かいぶかしかった-
のくだりは勉強せず本ばかり読んでいた高校生の心をたおやかに、しかししっかりとつかみ、私の読書への傾倒は激しさを増した。
人の心とは...漠寂とした寂寥感。繊細さの影にひそむ強烈な孤独感。そんなものを高校時代の私ももっていたのだろうか?
立原道造
ささやかな地異は そのかたみに
灰を降らした この村に ひとしきり
灰はかなしい追憶のように 音立てて
樹木の梢に 家々の 屋根に降りしきった
その夜 月は明るかったが 私はひとと
窓に凭れて語り合った (その窓からは山の姿が見えた)
部屋の隅々に 峡谷のように 光と
よくひびく笑ひ声が溢れていた
-人の心を知ることは.....人の心とは....
私は その人が蛾を追う手つきを あれは蛾を
捉へようとするのだらうか 何かいぶかしかった
いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか
火の山の物語と.....また幾夜さかは 果たして夢に
その夜習ったエリザベートの物語を織った
高校時代、国語の教科書で立原道造の詩を知った。
当時、国語の先生は京大をでて一年たったぐらいの若い先生で、立原道造の青春、恋人なんかについてもくわしく語ってくれて何枚も美しい詩をガリ版で刷ってくれた。
はじめてのものに は、その先生が絶賛し、わたしも一目みるなり甘美な繊細さに魅了された詩だ。
-人の心をしることは....何かいぶかしかった-
のくだりは勉強せず本ばかり読んでいた高校生の心をたおやかに、しかししっかりとつかみ、私の読書への傾倒は激しさを増した。
人の心とは...漠寂とした寂寥感。繊細さの影にひそむ強烈な孤独感。そんなものを高校時代の私ももっていたのだろうか?